このブログでは、主に性同一性障害に関連する私自身の思いや活動の内容を書いています。

2019年 年が明けました
三十槌の氷柱
秩父 三十槌の氷柱

2019年、平成最後の年が明けました。まずは新春のお慶びを申し上げます。
とはいうものの、今回の内容はおめでたい話ではありません。申し訳ありません。

私は一昨年末、特発性上葉限局型肺線維症(PPFE・網谷病とも)と診断されました。
この病気は国の指定難病でもある特発性間質性肺炎の一種で、肺の肺胞周りの細胞が線維化して、呼吸が困難になってくるという症状が出ます。
進行性で、当初は走ったり階段を昇降するのが困難程度でしたが、次第に歩くことも辛くなり、最近では座っていても息切れを感じるまでになってしまいました。体重も38kgまで落ち、日常生活も困難になりつつあります。

昨年はそれでも長年の懸案であった手術療法の健康保険適用やgid.jpの再起動を実現できました。ご尽力いただいたみなさま、お世話になりましたみなさまには感謝しても仕切れません。本当にありがとうございました。

とはいえ、ホルモン療法の健康保険適用や特例法の再改正、就労問題の改善、医療ネットワークの構築など課題もまだまだたくさん残されています。
もう、本当にあとどれくらい生きられるか…という状況になってきてはいるのですが、生命ある限りできることをやっていきたいと思っています。

ご迷惑をおかけすることも増えるかと存じますが、本年もどうかよろしくお願い申し上げます。
| ran-yamamoto | 肺線維症 | 15:38 | - | - |
熊本県において性別変更後のホルモン療法が保険適用になるまでの顛末
社会保険診療報酬支払基金熊本支部が、性同一性障害の当事者で戸籍の性別の取扱いの変更を行った者のホルモン療法に対して、保険診療を認めないと査定した件が全面的に解決しました。結論的に言えば「従前どおりの取扱い」つまりは、保険診療を継続することを認めたことになります。
これは、非常に画期的な判断といえるでしょう。熊本県だけにとどまらず、まだ保険診療を認めていない他都道府県にも影響が出そうです。

この件は、社会保険診療報酬支払基金熊本支部と熊本県合志市にある池田クリニックとの間で争われてきました。
池田院長から詳しいレポートをいただきましたので、ここにまとめておきたいと思います。レポートにあった池田院長個人の意見(青字で記載)も合わせて掲載しています。先生の熱い思いが伝わってくる内容で、必見です。
掲載に関してはすべてオープンでかまわないとのことでしたので、今まで某K県のようにぼかしてお伝えしていましたが、熊本県と明示することにします。

池田院長池田クリニック
泌尿器科・婦人科の診療所
院長 池田 稔 先生(写真)
熊本県合志市幾久富1866-1332
http://www.ikedaclinic.com/
現在受診者内、戸籍上男性のFTM 46名、戸籍上女性のMTF 8名。



H16/7〜(特例法施行直後)
池田クリニックでは性同一性障害で戸籍の性別変更が済んだ者に対して以下の病名でホルモン治療を行い、保険請求を行っていた。
FTM「両精巣欠損」「精巣機能不全」
(精巣機能不全にはいろいろな原因があるため、両精巣欠損も付けていた。)
MTF「卵巣機能不全」

H28/11/9
社会保険診療報酬支払基金熊本支部より平成28年9月分のレセプトに対して「両精巣欠損の病名が多く見受けられる。どのような病状か」という内容の文書が送られてくる。

個別のレセプトに対する詳記ではなく全体としての問い合わせであったため、どのような形で回答したらよいのかを尋ねるため熊本支部へ電話。「性同一性障害の方たちです。」と言ったところ「審査委員に話してみる。」との回答。
同日、社会保険診療報酬支払基金熊本支部審査業務第1課長の梅本氏より回答電話。「審査委員が性同一性障害ならよいと言っていた。」と伝えられる。

当時は,「性同一性障害なら分かった。それ以上のことを文書で回答しなくても良い。」というニュアンスで受け取る。

今回再確認したところ,「両側精巣欠損の原因が性同一性障害であることが分かった。」ということで,その後保険で認めるかどうかの検討に入ったと言い訳があった。

H29/4
社会保険診療報酬支払基金熊本支部より以下の内容の審査連絡文書到着 (※資料1
両精巣欠損」「性腺機能低下症」に関しては,原則保険診療の範囲外と解釈されている。
今後の検討資料として以下の点について,個々の症例についてご教示いただきたい。
テストステロンレベル値
性転換手術の内容と日時
戸籍変更の有無について

過日電話で「よい」と言ったはずなのに、なぜと疑問。おまけに“性同一性障害が原因の「両精巣欠損」「性腺機能低下症」に関しては、原則保険診療の範囲外と解釈されている”なら少しは理解できるが“「両精巣欠損」「性腺機能低下症」に関しては、原則保険診療の範囲外と解釈されています。”だけでは意味不明。まったく丁寧さを欠いた文書。
さらに、「性転換手術」という言葉を使うこと自体、ブルーボーイ事件の頃の知識考え方しかないのではと思ってしまう。


H29/8
社会保険診療報酬支払基金熊本支部より以下の内容の審査連絡文書到着 (※資料2
性同一性障害の患者に「両精巣欠損」および「精巣機能不全症」は適切な病名とは言えない。
病名より削除のこと。年1回程度の血中テストステロン濃度の測定値の記載すること。
<性同一性障害でレセプトへの記載を要するもの>
  • 「性同一性障害」の傷病名
  • 性転換手術の有無
  • 戸籍変更の有無
  • テストステロン測定値

    H29/9/28
    池田クリニックより審査委員宛で内容に関する照会と以下の意見を送付 (※資料3
    • 保険証に男という性別記載がある人に男性に本来あるべき精巣を認めなければ、それは両精巣欠損」の病名にあたると考えますが、適切ではない理由をご教示ください。
    • 「精巣機能不全症」の病名が適切でない理由をご教示ください。
    • 性転換手術の有無、⼾籍変更の有無のどちらも記載する理由をご教示ください。
    • 「性同一性障害」の傷病名の記載が必要な理由をご教示ください。

    H29/12/23
    社会保険診療報酬支払基金熊本支部より面接面談を行う旨の日時指定の連絡を受ける。

    H29/12/23
    社会保険診療報酬支払基金熊本支部にて面接懇談 (※資料4
    最終的に以下のような内容が話し合われた。
    性同一性障害の病名を付けて、レセプトのコメントに性別変更の有無を記載し,年2回テストステロンの測定を行って記載すれば,保険診療として認める。

    H29/12〜
    指定された項目を記載してレセプト提出

    H30/5/7
    社会保険診療報酬支払基金熊本支部より審査連絡文書到着 (※資料5
    「性同一性障害」に、ホルモン製剤の投与は保険適用外。平成30年4月診療分からの請求については認めらない。

    平成29年12月にレセプトの条件を満たせば保険診療を認めると言いながら、方針をころりと変更して診療がすでに終わった月のレセプトも保険診療を認めないという文書をだすやり方がまかり通ると思っていることに驚くとともに怒りを覚える。

    H30/5/7
    熊本支部に電話し、「3月中に連絡して4月から認めないなら分かるが、すでに終了している診療分を認めないというやり方は納得できない。結構です。すべて査定してください。」と伝える。

    H30/5/17
    私(山本 蘭)が厚生労働省保険局医療課に確認した内容(5月17日の記事参照)を電話で伝える。
    「疑義解釈資料の送付について(その1)」の問199では、戸籍変更後のホルモン療法に関して言及したものではないし、この疑義解釈資料で新たにホルモン療法を保険適用外としたわけではない。等
    社会保険診療報酬支払基金熊本支部が「確認する」との回答。

    H30/5/18
    再度確認の電話、支払基金として本部から厚労省へ問い合わせるとの回答。

    H30/5/29
    以下の内容の回答文書到着(※資料6
    従前どおり、レセプトに記載された内容から個々の症例に応じた審査決定を行うので、上記内容を踏まえ、今後の保険請求をされたい。

    平成30年5月30日付回答書に対する池田先生の意見
    1の「人権を考慮し」としながら性同一性障害の傷病名の記載を求めることについて
    そもそも性同一性障害に対するホルモン療法は、元来、添付文書の効能効果に記載はないにもかかわらず、それを保険で認めるという解釈自体が審査委員会自ら保険診療のルールを無視したものである。
    もし本当に人権を考慮しているのならば、性腺機能不全等の病名だけで良いと思う。法律のもと新たな性別で社会生活を送ることを認められた人たちに、性別変更をしたと推測されるような傷病名の記載を求めることは人権を考慮しているとは言いがたい。
    例えば、男性不妊で受診した人の原因検査で、染色体が46XXという女性型であったとき、それをそのまま説明するのは簡単であるが、そうすれば、その人が今まで男性として生きてきたことの否定になるし、その後どのように生きていけば良いのかという非常に残酷な迷いを与えることになる。真実を説明することにいささかのメリットもなければ、その結果をカルテ内に記載するにとどめ、傷病名は男性不妊症とすることが人権を考慮することではないかと思う。
    それが、療養担当規則違反と言いたければ、言っていただいてかまわないと思う。
    例えば、思春期女性のそけい部にしこりができ、摘除したところ精巣であった症例がある。外科医の父は、娘が医学部に入学した後、医学知識があるので理解できるだろうとそのことを告げたところ、数日後に自殺してしまうという悲しい結果になってしまった。外科医の父は「告げなければ良かった。どんな生活をしても良いので生きていてほしかった」と心境を語られている。性に関する問題は、その人の尊厳にかかわる重要なものであり、より慎重にならなければならない。
    例えば、既婚女性のそけい部にしこりができ、それを摘除したところ精巣であった症例に対し、担当医は、そのままを説明した。その女性は、自分が半分男性であるという意識から、夫との性行為ができなくなり、「死ぬまで自分だけの胸に納める」という覚悟で、夫にウソをついて生活する苦しさを告白された人がいる。
    面接懇談のなかでの発言「性同一性障害は単なる思い込み」といい、審査委員の雑談のなかで発言されたと聞いた「肺がん術後などの病名は付け続ける」しかり、性同一性障害のことを理解しているとは言い難く、所詮この程度の知識や人権意識しか持ち合わせない人が審査委員になっているということであると思う。
    性同一性障害の治療は、確かに以前はカウンセリング、精神療法などが行われたが、すべて失敗して悲惨な結果を招いたことを反省し、現在では、身体の性別を変更する治療になっている。そのことを理解していれば、「単なる思い込み」と言う発言などできるはずがない。性転換手術と記載したり、性転換手術の有無と性別変更の有無を記載しろなどのことからも理解ができていないことが明らかである。
    疾患として一括りにするのではなく、区別が必要である。
    性分化に関する病態は、その人にとって説明することで何らかの利益がある場合を除き、すべてを詳細に説明しない方が良い場合が多い。また、病名として記載しない方が良い場合が多い。性同一性障害の病名も、戸籍の性別変更後は本人の許可がある場合を除きカルテ内の記載にとどめるべきと考える。

    2の協議内容について
    「性同一性障害に対して手術が保険適応となったが、手術後のホルモン療法に使用する薬剤等も保険適応となるのか」という質疑に対して、厚労省からの回答は、「性同一性障害に対するホルモン製剤の投与については、従前のとおり保険適応外となる。」と文書で明確に示されました。
     協議の結果、性同一性障害(戸籍変更者)に対するホルモン製剤の投与について、文書で明確に示されたのであれば、熊本支部の審査委員会としては、やむなく保険適応外という取扱いに変更することとなりました。

    この説明は明らかな矛盾がある。厚労省の回答は、「性同一性障害の人の性別適合手術後のホルモン治療について従前のとおり保険適応外となる」としているのに、熊本支部では、「性同一性障害(戸籍変更者)に対して明確に示された」と勘違いしている。性同一性障害の性別適合手術後の人(戸籍変更未)と戸籍の性別変更をした人を区別して考えていない。両者では、性別が異なる。

    4の厚労省の考え方について
    「今まで、性腺機能低下不全等の症例で認めてきたのであれば、それは個々の症例に対する審査委員会の判断だと思われる。今回の改正やこの事務連絡をもってこれまでのホルモン療法の取扱いを変更したわけではない」

    性腺機能低下または性腺機能不全があれば、それを補うホルモン治療は今後も認めて良いということであり、性同一性障害という傷病名に対するホルモン治療を認めることではないと指摘されている。このことは熊本支部の判断が間違っていたことを改めて示している。
    性別が「男」の人の性腺機能低下・不全に男性ホルモンを補充する、または性別が「女」の人の性腺機能低下・不全に女性ホルモンを補充することにどのような不都合があるのかということである。

    5の協議内容について
    協議を重ねて、その都度検討し方針を決定してきたと書かれているが、そもそも、厚労省の考え方に記載されているように、通知の意味を取り間違えたことによるドタバタである。
    そのために、方針がコロコロ変わり、私も当事者の人たちも振り回されることになった。しかし、このことに対する謝罪の記載はない。
    また、「したがって、従前どおり、レセプトに記載された内容から、個々の症例に応じた審査決定を行いますので、上記内容を踏まえ、今後の保険請求をお願い申し上げます。」の従前が、どの時点をさするかが明確ではなく、やはり丁寧さを欠いている。

    これから
    「性同一性障害に対するホルモン補充療法は、現時点では熊本支部においては認める方向にしたい」という方針を変更しないと明記されているので、これからは、それがいかなる原因であれ,例えばその理由が性同一性障害であっても “性別が「男」の人の性腺機能低下・不全に男性ホルモンを補充する,または性別が「女」の人の性腺機能低下・不全に女性ホルモンを補充することにどのような不都合があるのか” に従い、性同一性障害による性別変更者においても性腺機能低下・不全等の病名で保険請求をしていきたいと思う。



    今回の件は池田先生の奮闘努力が稔った成果と言えます。私が厚労省と交渉したことも援護射撃になったようで、本当に良かった。
    審査支払機関と揉めるとその後の査定にも影響が出るかもしれず、普通ここまで突っ張ることは難しいでしょう。
    これも、池田先生の信念があったればこそ為しえたことだと思うのですが、私たちのことを思ってくださるこうした先生方の尽力によって、今があるのだなと痛感します。頭が下がるだけでなく、目頭が熱くなりますね。
    池田先生、本当にありがとうございました。
    | ran-yamamoto | 性同一性障害 | 00:53 | - | - |
    性同一性障害特例法の手術要件撤廃にはもっと議論が必要
    性同一性障害特例法では、第3条第1項4号と5号に下記規定があり、これが性別の取扱いの変更を行うために性別適合手術が必要となることを示しています。
    四 生殖腺せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
    五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
    先日のエントリーで島根県議が不適切発言をしたとして謝罪を求めた件を記事にしましたが、世界的に性別変更の要件から手術を外す動きが見られます。
    日本でも岡山県の臼井さんが性別適合手術を受けないまま戸籍上の性別変更を求める裁判を行っており、高裁までは敗訴して現在最高裁で争っている状態となっていますね。

    高裁支部も性別変更申し立て棄却 新庄の臼井さん即時抗告審
    山陽新聞2018年2月18日
    http://www.sanyonews.jp/article/668105

    それでは特例法を改正して、この手術要件を外すべきなのでしょうか?
    私はそう単純な話では無いと考えています。その理由を下記に書いておきます。

    1.性同一性障害の当事者のうち、中核群の当事者にとって手術要件は障壁とはならない。
    性同一性障害の当事者のうち、特に中核群と呼ばれる人たちの多くは身体に対する強い違和感があり、手術を必要としています。従って手術要件があったとしても、それ自体は大きな障壁とはなりません。

    2.権利を侵害されることになる側(特に女性)への配慮が必要
    手術を必要としないとなると、男性器を持った女性、女性器をもった男性が存在することになります。
    世の中にはトイレ、更衣室、浴場、病室、矯正施設など男女別の施設がいくつもありますが、これらの施設が男女別になっていることには意味があります。特に、性的被害を受ける可能性が高い女性にとっては「安心・安全な環境を提供する」という意味合いがあります。
    しかし、手術を必要とせずに戸籍の性別変更ができるとなると、男性器をもった人、しかも場合によっては女性を妊娠させる能力を持った人がこうした女性専用の施設に入場してくることになります。
    世の中に女装した人の痴漢行為や盗撮などの性犯罪が多く存在する昨今、これで本当に女性の安心・安全な環境を提供することができるのでしょうか。
    もちろん、そうした犯罪を犯す人が悪いのであって、それによって無関係の人にまで累が及ぶのはおかしい。という考えもあるでしょう。今年のGID学会でも高岡法科大学(当時)の谷口先生がそのような発言をされていました。
    しかし、犯罪をおかす人が悪いだけという論法であれば「女性専用車両」というものは必要ないわけです。痴漢は、それを行った人だけが悪いのであって、他の男性は無関係です。でも女性専用車両が必要となった背景には、そうでないと女性の安心・安全な空間を確保できないと判断されたからです。
    結局の所、このような発言ができるのは、女性がどれだけ小さいときから性的関心を受けたり怖い思いをしてきたか、ということに男性の研究者は思いが至らないからではないかと思います。
    それに、触ったり盗撮したりという明らかな犯罪まではいかなくても、じろじろ見られたり、場合によって股間を膨らまされたりしたらどうでしょうか。考えただけでもぞっとします。
    やはり、これは男女別施設によって安心・安全な環境を提供されるという権利を侵害していると考えられます。となれば、当事者側の権利の主張だけで物事を通すことはできません。
    それでは、入れ墨のように施設によって未手術の人を排除するということは可能なのでしょうか。
    これも無理と言わざる得ません。特例法では、第4条第1項に「法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす。」とあります。従って性器の有無だけで法的に性別が変わった者を排除することに合理性は見いだしにくく「差別」にあたることになるからです。数年前に静岡で、性別の取扱いを変更した人がゴルフ場への入会を拒否された事件では、差別にあたるとしてゴルフ場側が敗訴しています。
    それでは「法律で別段の定めを作れば良い」という話になるでしょうか。例えば「未手術の人は特定の施設の利用を制限できる」とか。これもどうでしょう。これではある意味「あなたは完全な女性(または男性)ではない」と言われているようなものです。二等性別のように扱われることに当事者が良しとするとは思えません。

    3.男性に戸籍変更後に出産、女性に戸籍変更後に認知が発生する可能性。
    妊娠したFTMの人生殖器をそのまま持っている訳ですから、当然男性に性別変更した人が出産したり女性に性別変更した人が妊娠させたりすることがありえます。つまり男性が母、女性が父ということがありうるということです。
    実際、海外の事例で男性に性別変更した人が出産したということがニュースになっています。
    別に男性が母になってもいいじゃないかという議論は確かにあるでしょう。が、こうなってくると男とは何か、女とは何かという定義というか哲学や宗教の扱う範囲になってしまいそうです。
    現状の法律や行政の体制はもちろんそれを前提としておらず、いろいろな制度で手直しが必要になりそうです。
    しかし、それよりも問題なのは「家族観」でしょうか。保守系の政治家には、家族観にうるさい人が結構大きな勢力として存在しています。夫婦の選択的別姓が実現しないのも、代理母出産が実現しないのも極端に言えばこの人たちが反対しているからです。「日本の美しい伝統的家族が破壊される。」というのが理由のようなのですが、いったいいつからの伝統よと思ってしまいます。特例法の「現に子がいないこと。」要件にしても「子どもの人権に配慮して」というよりはこうした人たちの家族観に反するというのが大きな要因と言えます。
    加えて、これに法務省が荷担しています。法務省の人たちは「世界に冠たる戸籍制度を守る」ということに執念を持っているようで、戸籍に変な記載が入り込むことを極端に嫌います。FTMの方にAIDで産まれた子を嫡出子とするかどうかの件でも頑なに抵抗したことでもそれがわかります。
    実は特例法成立の背景には、こうした保守系政治家に対して「家族観を壊すものではない」という説得がありました。全会一致にできたのは、その成果もあったと思っています。
    そうした家族観に男性が母、女性が父となる要素は、全く受け入れられないでしょう。まだまだ残されている諸問題に政治の力を借りなくてはいけない現状では、こうした方々を敵に回したくはありません。

    4.要件の再検討が必要
    現行の特例法から手術要件が無くなると、20歳(成人年齢が変更になれば18歳)以上、婚姻していないこと、現に未成年の子がいないこと、性同一性障害の診断を受けていることの4つが要件として残ることになります、果たしてこれでいいのかを考えなければなりません。
    世界にはアルゼンチンのように、医師の診断書も必要なく申請だけで性別変更ができる国もありますが、日本もそこまで行くのでしょうか。
    私は、不十分と私は考えます。というのはこのままだとホルモン療法も全くやっていない、身体の状態は完全に男性のまま、女性のままという人も対象になるからです。性同一性障害であるという確定診断は、身体の治療を始まる前に出るからです。先に書いた2の件を考えると、さすがに身体の状態が全く元のままというのは厳しいと言わざる得ませんし、社会適合できているとは言えません。髭もじゃの人が女性として扱われるなんて、受け入れるられないでしょう。
    とはいえ「性自認の性別でパスしていること」のような基準は、客観性があまりに無いため設けることは無理です。イギリスの Gender Recognition Act 2004(性別承認法)では Been living permanently in their preferred gender role for at least 2 years(少なくとも2年間は望みの性別で日常生活を送ること)というようにRLE重視の発想をしています。しかし、これもどうやって、誰が検証するのかという問題がでてきます。
    基本的に法律は裁判官に判断を丸投げするような形ではダメで、明確に判断できる基準を設けなければなりません。そのためには客観的な誰でもが評価できるような判断材料が必要となります。
    それでは精神科医が判断するということではどうでしょう?いや、これだと精神科医が完全に門番になってしまい、現在のガイドラインで唄われている当事者にサポ−ティブに接するということと反しそうですし、精神科医に人生の大問題を決めて欲しくないとも思います。なかなか悩ましいですね。というわけで、手術を外すのであれば代わりにどのような基準を設けるのかについては、更なる検討が必要でしょう。

    5.性別の再変更の可能性の検討が必要
    手術要件を撤廃すると、変更へのハードルはが大きく下がることになります。逆に言えば安易に性別変更を行う人が出てくるということです。現行の特例法では再変更は全く考慮されていませんが、手術要件を撤廃するとなると考えておかなければならなくなります。
    もちろん自由に変更できて良いでは無いかという考えもあるでしょう。が、性別というものを、その時々の都合でそんなに変えて良いものなのか、疑問が残ります。

    結論的には
    以上、性別変更の要件から手術要件を外した場合に起きる問題を考えてみました。この他にもあるかもしれませんが、もしあればTwitterかメールでお知らせいただければありがたいです。

    結論的には、現時点で手術要件を外すということについては議論が不足しており時期尚早と考えます。
    少なくとも、当事者のニーズがどれくらいあるのか、実際に外した場合影響を受ける(特に女性)側の受け入れは可能なのかなどの調査が必要でしょう。また、上記4で書いたような要件をどうするのかという検討も必要です。
    GID学会には単に手術要件撤廃という決議を行うだけではなく、まずはこうしたアカデミックなエビデンスを揃えていただきたいものです。要件についても試案くらいは提示すべきべきでしょう。
    また、手術要件撤廃を訴えている人は、国に対してその要望を行う前に、世間に対して男性器がついていても女性、子どもが産めても男性なのだということについて、理解と支持をとりつけるべきではないでしょうか。

    特例法ができて15年、保守系の方にもこの制度は既存の秩序を揺るがすものではないし、性別変更を行っても問題は起こらないと言うことで支持を得てきたと思っています。実際8000名近い人が性別の取扱いを変更していますが、それによって大きな問題が起きたという話は聞いていませんし、これにまつわる事件も発生していません。
    しかし、手術要件をはずすとなると話は別です。下手をするとバックラッシュが起きることもあり得ます。そんなことになってしまうと本来手術を必要とする当事者にも、埋没して生きたい当事者にも悪影響が起きかねません。
    手術要件を削除することが本当に私たちにとって良いことなのか、当事者自身、もっと考える必要がありそうです。
    | ran-yamamoto | 性同一性障害 | 23:32 | - | - |
    性別適合手術は、強制断種手術ではない。
    旧優性保護法下において、遺伝性疾患や知的障害、精神障害の方の一部が国によって強制不妊手術を受けたという問題がクローズアップされ、補償を含めて話題になっています。(下記のリンクなどを参照ください)
      強制不妊手術の問題が今なぜ注目されるのか
      東京経済オンライン(https://toyokeizai.net/articles/-/218189
    記事によれば過去1万6500件も実施されていたとのこと。被害に合われた方には心よりお見舞い申し上げます。

    さて、これに便乗したわけでもないのでしょうが、性同一性障害特例法で性別の取扱いの変更を行うための要件のうち、第3条第1項4号に
    四 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
    とある規定を、国による不妊手術の強要であるとか強制断種であると主張する人がいます。
    しかし、これは強制不妊手術にも強制断種にもあたらないということをはっきりと主張しておきたいと思います。

    まず、記事にあるような国による強制不妊手術は、本人の同意無く行われたものです。しかし、性同一性障害における性別適合手術は、本人の強い希望によってのみ行われます。しかも全額自費で。
    性同一性障害の当事者の多くは、手術を受けたいために懸命にお金を貯めて、精神科や婦人科や泌尿器科に(場合によっては何年も)通って診断書をもらい、更に手術まで何年も待たされたり時には海外に行ってまで受けるわけです。
    更に言えば、元々手術を嫌がる医師を懇願の末になんとか説得して、ようやく始まったという経緯すらあるのです。
    これのどこに強制性があるというのでしょう。

    や、「手術は受けたくなかったが特例法によって戸籍の性別の取扱いを変更するためには受けざるを得なかった。これは一種の強制である。」と主張する人もいるようです。
    ですが、これもおかしな話です。
    そもそも性別適合手術は、身体に対して強い違和感があり、それを解消するために行われることになっています。精神科医が患者を診察して、本人が強く希望し、性別に対する違和感からくる苦痛・苦悩を取り除くためには手術をするしかないと判断して初めて行われるものです。しかもその診断が間違いでないように2人以上の精神科医が診ることになっていますし、更には専門家による判定会議も行われます。
    当然、戸籍変更したいからというような個人の利得のために行うものではありませんし、それを理由として手術を希望しても、本来精神科医の診断は得られないし判定会議も通りません。
    もし、本当は手術をしたくなかったけれど、戸籍の変更のために仕方なくやったという人がいるなら、その人は精神科医も判定会議のメンバーも騙したということです。

    もうひとつ。性同一性障害特例法は「性別の取扱いの変更を行うには、手術をしなさい。」と言っているわけではありません。
    手術も行い、男性として、あるいは女性として生きている人の戸籍上の性別を、そのままだとあまりに不便だろうから現状に合わせて変更しましょうという法律です。
    つまり、「特例法の要件を満たすために手術をする」のではなく「手術をした人の性別を追認する」ための法律なのであり、順序が逆なのです。

    以上から性別適合手術が強制不妊手術でないことがおわかりいただけたかと思います。
    とにかく、こうした強制不妊手術とか強制断種であるかのようなネガティブキャンペーンやデタラメには騙されないようにお願いします。
    | ran-yamamoto | 性同一性障害 | 16:12 | - | - |
    島根県議の発言は「不適切」なのか?
    「女性の風呂に男性のものをぶら下げた人が入ったら混乱する」と発言した島根県議の発言に、市民団体が謝罪を求める記者会見を開いたというニュースがありました。

    いやいや、そりゃ女性のお風呂に男性のもをぶら下げた人が入ってきたら、混乱するどころか大騒ぎになるのは間違いありません。それが「素直な感覚」というものでしょう。
    島根県議の人はそうした素直な感覚にそって発言されたわけで、謝る必要は全く無いと思いますよ。

    そもそもお風呂が男湯/女湯と入浴場が分かれているのは必要性があってのことです。その女湯に一見で女性に見えない人が入浴してくるというのは本来あり得ないことですから、そこで混乱が起きたり騒ぎになるのは当然でしょう。
    それでなくても女装した人が女性用のお風呂に入って逮捕されたりするニュースがよく流れる昨今です。女性はただでさえいろいろな性的被害にさらされています。

    性別変更に手術要件が必要なのかどうかについては確かにいろいろな議論があります。世界的には手術要件を外す方向で動いているという話もあります。でも、日本においては入浴の習慣があるなど他国とは異なる事情もあるわけです。
    手術要件の可否については私にも意見があるのでこれは別記事でまとめようと思いますが、百歩譲って未手術でも性別変更ができるようになったとしても「自分は戸籍上女性だ、女湯に入る権利があるんだ。」と声高に権利を振りかざして良いというものではありません。世の中基本は譲り合いなのですから、やはり受け入れてくれる女性側の心情にも配慮する必要性があるのは当然です。
    男性器をぶら下げていても女湯を問題無く使えるようになるには、そういう女性もありうるということを多くの人が知り、受け入れてもらえるという環境が必要でしょう。そして、その環境ができるよう地道な努力をまずすべきなのではないでしょうか。

    それにしても「県議の発言は残念だ。」くらいならまだしも謝罪を求めるって何様のつもりなんんでしょうか。上田さんは昔から女装コンテストを廃止に追い込んだり「おネエ」という表現にかみついたりと過敏な行動が目立ちます。
    私は活動というものは「理解を求めるより共感を広げたい。」と思っています。頭で理解するのではなく、心で感じて欲しい。この件で言えば「あなたが女湯に入るのは当然だし、そうでないとおかしい。」と思ってもらうということです。それができなければ、真に受け入れてもらえたとは言えないからです。人権ゴロじゃないんですから、このような高飛車なやり方では決して共感は広がらないでしょう。
    こういう活動だけは絶対にすまい、と強く思うのでした。


    LGBTめぐる島根県議の発言は「不適切」 支援団体代表、謝罪求める
    産経新聞関西版 2018年6月15日
    https://www.sankei.com/west/news/180615/wst1806150091-n1.html

     国に性同一性障害特例法の改正を求める陳情を島根県議会に提出した市民団体代表が15日、島根県庁で記者会見し、昨年9月の審議の場で男性県議が「女性の風呂に男性のものをぶら下げた人が入ったら混乱する」と発言したのは不適切だとして謝罪を求めた。

     会見したのは性的少数者(LGBT)を支援する市民団体「のりこえねっと紫の風」の上田地優(ちひろ)代表。性別適合手術を受けなくても性別変更を認める法改正を国に請願するよう陳情で求めた。

     昨年9月26日、建設環境委員会で審査した際、この県議は、男性として生まれたLGBTが、手術をせずに「女性の風呂に入り中でひげでもそったら、(周囲の女性は)びびると思う」と発言した。取材に対し「心と体の性が一致する人にも配慮しなきゃいけないという趣旨だ。意見を変える気も謝る気もない」と答えている。

     上田代表は「県議は笑いながら発言していた。発言のレベルはネット上の誹謗中傷と同じで、同席の県の人権問題関係者から発言に反応や擁護がないこともショックだった」と話した。審議後、陳情を取り下げた。

     上田代表は、LGBTのコントラバス奏者の公演ポスターに「おネエ系」という言葉が使われたのは「不快」だと指摘。9日開催予定だった公演は中止となり、会見はその経緯を説明するとして開かれた。
    | ran-yamamoto | 性同一性障害 | 23:41 | - | - |
    CALENDAR
    SMTWTFS
         12
    3456789
    10111213141516
    17181920212223
    24252627282930
    31      
    << March 2024 >>
    SELECTED ENTRIES
    CATEGORIES
    ARCHIVES
    LINKS
    PROFILE
    このページの先頭へ