2018.06.21 Thursday
熊本県において性別変更後のホルモン療法が保険適用になるまでの顛末
社会保険診療報酬支払基金熊本支部が、性同一性障害の当事者で戸籍の性別の取扱いの変更を行った者のホルモン療法に対して、保険診療を認めないと査定した件が全面的に解決しました。結論的に言えば「従前どおりの取扱い」つまりは、保険診療を継続することを認めたことになります。
これは、非常に画期的な判断といえるでしょう。熊本県だけにとどまらず、まだ保険診療を認めていない他都道府県にも影響が出そうです。
この件は、社会保険診療報酬支払基金熊本支部と熊本県合志市にある池田クリニックとの間で争われてきました。
池田院長から詳しいレポートをいただきましたので、ここにまとめておきたいと思います。レポートにあった池田院長個人の意見(青字で記載)も合わせて掲載しています。先生の熱い思いが伝わってくる内容で、必見です。
掲載に関してはすべてオープンでかまわないとのことでしたので、今まで某K県のようにぼかしてお伝えしていましたが、熊本県と明示することにします。
H16/7〜(特例法施行直後)
池田クリニックでは性同一性障害で戸籍の性別変更が済んだ者に対して以下の病名でホルモン治療を行い、保険請求を行っていた。
H28/11/9
社会保険診療報酬支払基金熊本支部より平成28年9月分のレセプトに対して「両精巣欠損の病名が多く見受けられる。どのような病状か」という内容の文書が送られてくる。
個別のレセプトに対する詳記ではなく全体としての問い合わせであったため、どのような形で回答したらよいのかを尋ねるため熊本支部へ電話。「性同一性障害の方たちです。」と言ったところ「審査委員に話してみる。」との回答。
同日、社会保険診療報酬支払基金熊本支部審査業務第1課長の梅本氏より回答電話。「審査委員が性同一性障害ならよいと言っていた。」と伝えられる。
当時は,「性同一性障害なら分かった。それ以上のことを文書で回答しなくても良い。」というニュアンスで受け取る。
今回再確認したところ,「両側精巣欠損の原因が性同一性障害であることが分かった。」ということで,その後保険で認めるかどうかの検討に入ったと言い訳があった。
H29/4
社会保険診療報酬支払基金熊本支部より以下の内容の審査連絡文書到着 (※資料1)
過日電話で「よい」と言ったはずなのに、なぜと疑問。おまけに“性同一性障害が原因の「両精巣欠損」「性腺機能低下症」に関しては、原則保険診療の範囲外と解釈されている”なら少しは理解できるが“「両精巣欠損」「性腺機能低下症」に関しては、原則保険診療の範囲外と解釈されています。”だけでは意味不明。まったく丁寧さを欠いた文書。
さらに、「性転換手術」という言葉を使うこと自体、ブルーボーイ事件の頃の知識考え方しかないのではと思ってしまう。
H29/8
社会保険診療報酬支払基金熊本支部より以下の内容の審査連絡文書到着 (※資料2)
H29/9/28
池田クリニックより審査委員宛で内容に関する照会と以下の意見を送付 (※資料3)
H29/12/23
社会保険診療報酬支払基金熊本支部より面接面談を行う旨の日時指定の連絡を受ける。
H29/12/23
社会保険診療報酬支払基金熊本支部にて面接懇談 (※資料4)
最終的に以下のような内容が話し合われた。
H29/12〜
指定された項目を記載してレセプト提出
H30/5/7
社会保険診療報酬支払基金熊本支部より審査連絡文書到着 (※資料5)
平成29年12月にレセプトの条件を満たせば保険診療を認めると言いながら、方針をころりと変更して診療がすでに終わった月のレセプトも保険診療を認めないという文書をだすやり方がまかり通ると思っていることに驚くとともに怒りを覚える。
H30/5/7
熊本支部に電話し、「3月中に連絡して4月から認めないなら分かるが、すでに終了している診療分を認めないというやり方は納得できない。結構です。すべて査定してください。」と伝える。
H30/5/17
私(山本 蘭)が厚生労働省保険局医療課に確認した内容(5月17日の記事参照)を電話で伝える。
H30/5/18
再度確認の電話、支払基金として本部から厚労省へ問い合わせるとの回答。
H30/5/29
以下の内容の回答文書到着(※資料6)
平成30年5月30日付回答書に対する池田先生の意見
1の「人権を考慮し」としながら性同一性障害の傷病名の記載を求めることについて
そもそも性同一性障害に対するホルモン療法は、元来、添付文書の効能効果に記載はないにもかかわらず、それを保険で認めるという解釈自体が審査委員会自ら保険診療のルールを無視したものである。
もし本当に人権を考慮しているのならば、性腺機能不全等の病名だけで良いと思う。法律のもと新たな性別で社会生活を送ることを認められた人たちに、性別変更をしたと推測されるような傷病名の記載を求めることは人権を考慮しているとは言いがたい。
例えば、男性不妊で受診した人の原因検査で、染色体が46XXという女性型であったとき、それをそのまま説明するのは簡単であるが、そうすれば、その人が今まで男性として生きてきたことの否定になるし、その後どのように生きていけば良いのかという非常に残酷な迷いを与えることになる。真実を説明することにいささかのメリットもなければ、その結果をカルテ内に記載するにとどめ、傷病名は男性不妊症とすることが人権を考慮することではないかと思う。
それが、療養担当規則違反と言いたければ、言っていただいてかまわないと思う。
例えば、思春期女性のそけい部にしこりができ、摘除したところ精巣であった症例がある。外科医の父は、娘が医学部に入学した後、医学知識があるので理解できるだろうとそのことを告げたところ、数日後に自殺してしまうという悲しい結果になってしまった。外科医の父は「告げなければ良かった。どんな生活をしても良いので生きていてほしかった」と心境を語られている。性に関する問題は、その人の尊厳にかかわる重要なものであり、より慎重にならなければならない。
例えば、既婚女性のそけい部にしこりができ、それを摘除したところ精巣であった症例に対し、担当医は、そのままを説明した。その女性は、自分が半分男性であるという意識から、夫との性行為ができなくなり、「死ぬまで自分だけの胸に納める」という覚悟で、夫にウソをついて生活する苦しさを告白された人がいる。
面接懇談のなかでの発言「性同一性障害は単なる思い込み」といい、審査委員の雑談のなかで発言されたと聞いた「肺がん術後などの病名は付け続ける」しかり、性同一性障害のことを理解しているとは言い難く、所詮この程度の知識や人権意識しか持ち合わせない人が審査委員になっているということであると思う。
性同一性障害の治療は、確かに以前はカウンセリング、精神療法などが行われたが、すべて失敗して悲惨な結果を招いたことを反省し、現在では、身体の性別を変更する治療になっている。そのことを理解していれば、「単なる思い込み」と言う発言などできるはずがない。性転換手術と記載したり、性転換手術の有無と性別変更の有無を記載しろなどのことからも理解ができていないことが明らかである。
疾患として一括りにするのではなく、区別が必要である。
性分化に関する病態は、その人にとって説明することで何らかの利益がある場合を除き、すべてを詳細に説明しない方が良い場合が多い。また、病名として記載しない方が良い場合が多い。性同一性障害の病名も、戸籍の性別変更後は本人の許可がある場合を除きカルテ内の記載にとどめるべきと考える。
2の協議内容について
「性同一性障害に対して手術が保険適応となったが、手術後のホルモン療法に使用する薬剤等も保険適応となるのか」という質疑に対して、厚労省からの回答は、「性同一性障害に対するホルモン製剤の投与については、従前のとおり保険適応外となる。」と文書で明確に示されました。
協議の結果、性同一性障害(戸籍変更者)に対するホルモン製剤の投与について、文書で明確に示されたのであれば、熊本支部の審査委員会としては、やむなく保険適応外という取扱いに変更することとなりました。
この説明は明らかな矛盾がある。厚労省の回答は、「性同一性障害の人の性別適合手術後のホルモン治療について従前のとおり保険適応外となる」としているのに、熊本支部では、「性同一性障害(戸籍変更者)に対して明確に示された」と勘違いしている。性同一性障害の性別適合手術後の人(戸籍変更未)と戸籍の性別変更をした人を区別して考えていない。両者では、性別が異なる。
4の厚労省の考え方について
「今まで、性腺機能低下不全等の症例で認めてきたのであれば、それは個々の症例に対する審査委員会の判断だと思われる。今回の改正やこの事務連絡をもってこれまでのホルモン療法の取扱いを変更したわけではない」
性腺機能低下または性腺機能不全があれば、それを補うホルモン治療は今後も認めて良いということであり、性同一性障害という傷病名に対するホルモン治療を認めることではないと指摘されている。このことは熊本支部の判断が間違っていたことを改めて示している。
性別が「男」の人の性腺機能低下・不全に男性ホルモンを補充する、または性別が「女」の人の性腺機能低下・不全に女性ホルモンを補充することにどのような不都合があるのかということである。
5の協議内容について
協議を重ねて、その都度検討し方針を決定してきたと書かれているが、そもそも、厚労省の考え方に記載されているように、通知の意味を取り間違えたことによるドタバタである。
そのために、方針がコロコロ変わり、私も当事者の人たちも振り回されることになった。しかし、このことに対する謝罪の記載はない。
また、「したがって、従前どおり、レセプトに記載された内容から、個々の症例に応じた審査決定を行いますので、上記内容を踏まえ、今後の保険請求をお願い申し上げます。」の従前が、どの時点をさするかが明確ではなく、やはり丁寧さを欠いている。
これから
「性同一性障害に対するホルモン補充療法は、現時点では熊本支部においては認める方向にしたい」という方針を変更しないと明記されているので、これからは、それがいかなる原因であれ,例えばその理由が性同一性障害であっても “性別が「男」の人の性腺機能低下・不全に男性ホルモンを補充する,または性別が「女」の人の性腺機能低下・不全に女性ホルモンを補充することにどのような不都合があるのか” に従い、性同一性障害による性別変更者においても性腺機能低下・不全等の病名で保険請求をしていきたいと思う。
今回の件は池田先生の奮闘努力が稔った成果と言えます。私が厚労省と交渉したことも援護射撃になったようで、本当に良かった。
審査支払機関と揉めるとその後の査定にも影響が出るかもしれず、普通ここまで突っ張ることは難しいでしょう。
これも、池田先生の信念があったればこそ為しえたことだと思うのですが、私たちのことを思ってくださるこうした先生方の尽力によって、今があるのだなと痛感します。頭が下がるだけでなく、目頭が熱くなりますね。
池田先生、本当にありがとうございました。
これは、非常に画期的な判断といえるでしょう。熊本県だけにとどまらず、まだ保険診療を認めていない他都道府県にも影響が出そうです。
この件は、社会保険診療報酬支払基金熊本支部と熊本県合志市にある池田クリニックとの間で争われてきました。
池田院長から詳しいレポートをいただきましたので、ここにまとめておきたいと思います。レポートにあった池田院長個人の意見(青字で記載)も合わせて掲載しています。先生の熱い思いが伝わってくる内容で、必見です。
掲載に関してはすべてオープンでかまわないとのことでしたので、今まで某K県のようにぼかしてお伝えしていましたが、熊本県と明示することにします。
池田クリニック
泌尿器科・婦人科の診療所
院長 池田 稔 先生(写真)
熊本県合志市幾久富1866-1332
http://www.ikedaclinic.com/
現在受診者内、戸籍上男性のFTM 46名、戸籍上女性のMTF 8名。
泌尿器科・婦人科の診療所
院長 池田 稔 先生(写真)
熊本県合志市幾久富1866-1332
http://www.ikedaclinic.com/
現在受診者内、戸籍上男性のFTM 46名、戸籍上女性のMTF 8名。
H16/7〜(特例法施行直後)
池田クリニックでは性同一性障害で戸籍の性別変更が済んだ者に対して以下の病名でホルモン治療を行い、保険請求を行っていた。
FTM「両精巣欠損」「精巣機能不全」
(精巣機能不全にはいろいろな原因があるため、両精巣欠損も付けていた。)MTF「卵巣機能不全」
H28/11/9
社会保険診療報酬支払基金熊本支部より平成28年9月分のレセプトに対して「両精巣欠損の病名が多く見受けられる。どのような病状か」という内容の文書が送られてくる。
個別のレセプトに対する詳記ではなく全体としての問い合わせであったため、どのような形で回答したらよいのかを尋ねるため熊本支部へ電話。「性同一性障害の方たちです。」と言ったところ「審査委員に話してみる。」との回答。
同日、社会保険診療報酬支払基金熊本支部審査業務第1課長の梅本氏より回答電話。「審査委員が性同一性障害ならよいと言っていた。」と伝えられる。
当時は,「性同一性障害なら分かった。それ以上のことを文書で回答しなくても良い。」というニュアンスで受け取る。
今回再確認したところ,「両側精巣欠損の原因が性同一性障害であることが分かった。」ということで,その後保険で認めるかどうかの検討に入ったと言い訳があった。
H29/4
社会保険診療報酬支払基金熊本支部より以下の内容の審査連絡文書到着 (※資料1)
両精巣欠損」「性腺機能低下症」に関しては,原則保険診療の範囲外と解釈されている。
今後の検討資料として以下の点について,個々の症例についてご教示いただきたい。
テストステロンレベル値
性転換手術の内容と日時
戸籍変更の有無について
過日電話で「よい」と言ったはずなのに、なぜと疑問。おまけに“性同一性障害が原因の「両精巣欠損」「性腺機能低下症」に関しては、原則保険診療の範囲外と解釈されている”なら少しは理解できるが“「両精巣欠損」「性腺機能低下症」に関しては、原則保険診療の範囲外と解釈されています。”だけでは意味不明。まったく丁寧さを欠いた文書。
さらに、「性転換手術」という言葉を使うこと自体、ブルーボーイ事件の頃の知識考え方しかないのではと思ってしまう。
H29/8
社会保険診療報酬支払基金熊本支部より以下の内容の審査連絡文書到着 (※資料2)
性同一性障害の患者に「両精巣欠損」および「精巣機能不全症」は適切な病名とは言えない。
病名より削除のこと。年1回程度の血中テストステロン濃度の測定値の記載すること。
<性同一性障害でレセプトへの記載を要するもの>
- 「性同一性障害」の傷病名
- 性転換手術の有無
- 戸籍変更の有無
- テストステロン測定値
H29/9/28
池田クリニックより審査委員宛で内容に関する照会と以下の意見を送付 (※資料3)
- 保険証に男という性別記載がある人に男性に本来あるべき精巣を認めなければ、それは両精巣欠損」の病名にあたると考えますが、適切ではない理由をご教示ください。
- 「精巣機能不全症」の病名が適切でない理由をご教示ください。
- 性転換手術の有無、⼾籍変更の有無のどちらも記載する理由をご教示ください。
- 「性同一性障害」の傷病名の記載が必要な理由をご教示ください。
H29/12/23
社会保険診療報酬支払基金熊本支部より面接面談を行う旨の日時指定の連絡を受ける。
H29/12/23
社会保険診療報酬支払基金熊本支部にて面接懇談 (※資料4)
最終的に以下のような内容が話し合われた。
性同一性障害の病名を付けて、レセプトのコメントに性別変更の有無を記載し,年2回テストステロンの測定を行って記載すれば,保険診療として認める。
H29/12〜
指定された項目を記載してレセプト提出
H30/5/7
社会保険診療報酬支払基金熊本支部より審査連絡文書到着 (※資料5)
「性同一性障害」に、ホルモン製剤の投与は保険適用外。平成30年4月診療分からの請求については認めらない。
平成29年12月にレセプトの条件を満たせば保険診療を認めると言いながら、方針をころりと変更して診療がすでに終わった月のレセプトも保険診療を認めないという文書をだすやり方がまかり通ると思っていることに驚くとともに怒りを覚える。
H30/5/7
熊本支部に電話し、「3月中に連絡して4月から認めないなら分かるが、すでに終了している診療分を認めないというやり方は納得できない。結構です。すべて査定してください。」と伝える。
H30/5/17
私(山本 蘭)が厚生労働省保険局医療課に確認した内容(5月17日の記事参照)を電話で伝える。
「疑義解釈資料の送付について(その1)」の問199では、戸籍変更後のホルモン療法に関して言及したものではないし、この疑義解釈資料で新たにホルモン療法を保険適用外としたわけではない。等社会保険診療報酬支払基金熊本支部が「確認する」との回答。
H30/5/18
再度確認の電話、支払基金として本部から厚労省へ問い合わせるとの回答。
H30/5/29
以下の内容の回答文書到着(※資料6)
従前どおり、レセプトに記載された内容から個々の症例に応じた審査決定を行うので、上記内容を踏まえ、今後の保険請求をされたい。
平成30年5月30日付回答書に対する池田先生の意見
1の「人権を考慮し」としながら性同一性障害の傷病名の記載を求めることについて
そもそも性同一性障害に対するホルモン療法は、元来、添付文書の効能効果に記載はないにもかかわらず、それを保険で認めるという解釈自体が審査委員会自ら保険診療のルールを無視したものである。
もし本当に人権を考慮しているのならば、性腺機能不全等の病名だけで良いと思う。法律のもと新たな性別で社会生活を送ることを認められた人たちに、性別変更をしたと推測されるような傷病名の記載を求めることは人権を考慮しているとは言いがたい。
例えば、男性不妊で受診した人の原因検査で、染色体が46XXという女性型であったとき、それをそのまま説明するのは簡単であるが、そうすれば、その人が今まで男性として生きてきたことの否定になるし、その後どのように生きていけば良いのかという非常に残酷な迷いを与えることになる。真実を説明することにいささかのメリットもなければ、その結果をカルテ内に記載するにとどめ、傷病名は男性不妊症とすることが人権を考慮することではないかと思う。
それが、療養担当規則違反と言いたければ、言っていただいてかまわないと思う。
例えば、思春期女性のそけい部にしこりができ、摘除したところ精巣であった症例がある。外科医の父は、娘が医学部に入学した後、医学知識があるので理解できるだろうとそのことを告げたところ、数日後に自殺してしまうという悲しい結果になってしまった。外科医の父は「告げなければ良かった。どんな生活をしても良いので生きていてほしかった」と心境を語られている。性に関する問題は、その人の尊厳にかかわる重要なものであり、より慎重にならなければならない。
例えば、既婚女性のそけい部にしこりができ、それを摘除したところ精巣であった症例に対し、担当医は、そのままを説明した。その女性は、自分が半分男性であるという意識から、夫との性行為ができなくなり、「死ぬまで自分だけの胸に納める」という覚悟で、夫にウソをついて生活する苦しさを告白された人がいる。
面接懇談のなかでの発言「性同一性障害は単なる思い込み」といい、審査委員の雑談のなかで発言されたと聞いた「肺がん術後などの病名は付け続ける」しかり、性同一性障害のことを理解しているとは言い難く、所詮この程度の知識や人権意識しか持ち合わせない人が審査委員になっているということであると思う。
性同一性障害の治療は、確かに以前はカウンセリング、精神療法などが行われたが、すべて失敗して悲惨な結果を招いたことを反省し、現在では、身体の性別を変更する治療になっている。そのことを理解していれば、「単なる思い込み」と言う発言などできるはずがない。性転換手術と記載したり、性転換手術の有無と性別変更の有無を記載しろなどのことからも理解ができていないことが明らかである。
疾患として一括りにするのではなく、区別が必要である。
性分化に関する病態は、その人にとって説明することで何らかの利益がある場合を除き、すべてを詳細に説明しない方が良い場合が多い。また、病名として記載しない方が良い場合が多い。性同一性障害の病名も、戸籍の性別変更後は本人の許可がある場合を除きカルテ内の記載にとどめるべきと考える。
2の協議内容について
「性同一性障害に対して手術が保険適応となったが、手術後のホルモン療法に使用する薬剤等も保険適応となるのか」という質疑に対して、厚労省からの回答は、「性同一性障害に対するホルモン製剤の投与については、従前のとおり保険適応外となる。」と文書で明確に示されました。
協議の結果、性同一性障害(戸籍変更者)に対するホルモン製剤の投与について、文書で明確に示されたのであれば、熊本支部の審査委員会としては、やむなく保険適応外という取扱いに変更することとなりました。
この説明は明らかな矛盾がある。厚労省の回答は、「性同一性障害の人の性別適合手術後のホルモン治療について従前のとおり保険適応外となる」としているのに、熊本支部では、「性同一性障害(戸籍変更者)に対して明確に示された」と勘違いしている。性同一性障害の性別適合手術後の人(戸籍変更未)と戸籍の性別変更をした人を区別して考えていない。両者では、性別が異なる。
4の厚労省の考え方について
「今まで、性腺機能低下不全等の症例で認めてきたのであれば、それは個々の症例に対する審査委員会の判断だと思われる。今回の改正やこの事務連絡をもってこれまでのホルモン療法の取扱いを変更したわけではない」
性腺機能低下または性腺機能不全があれば、それを補うホルモン治療は今後も認めて良いということであり、性同一性障害という傷病名に対するホルモン治療を認めることではないと指摘されている。このことは熊本支部の判断が間違っていたことを改めて示している。
性別が「男」の人の性腺機能低下・不全に男性ホルモンを補充する、または性別が「女」の人の性腺機能低下・不全に女性ホルモンを補充することにどのような不都合があるのかということである。
5の協議内容について
協議を重ねて、その都度検討し方針を決定してきたと書かれているが、そもそも、厚労省の考え方に記載されているように、通知の意味を取り間違えたことによるドタバタである。
そのために、方針がコロコロ変わり、私も当事者の人たちも振り回されることになった。しかし、このことに対する謝罪の記載はない。
また、「したがって、従前どおり、レセプトに記載された内容から、個々の症例に応じた審査決定を行いますので、上記内容を踏まえ、今後の保険請求をお願い申し上げます。」の従前が、どの時点をさするかが明確ではなく、やはり丁寧さを欠いている。
これから
「性同一性障害に対するホルモン補充療法は、現時点では熊本支部においては認める方向にしたい」という方針を変更しないと明記されているので、これからは、それがいかなる原因であれ,例えばその理由が性同一性障害であっても “性別が「男」の人の性腺機能低下・不全に男性ホルモンを補充する,または性別が「女」の人の性腺機能低下・不全に女性ホルモンを補充することにどのような不都合があるのか” に従い、性同一性障害による性別変更者においても性腺機能低下・不全等の病名で保険請求をしていきたいと思う。
今回の件は池田先生の奮闘努力が稔った成果と言えます。私が厚労省と交渉したことも援護射撃になったようで、本当に良かった。
審査支払機関と揉めるとその後の査定にも影響が出るかもしれず、普通ここまで突っ張ることは難しいでしょう。
これも、池田先生の信念があったればこそ為しえたことだと思うのですが、私たちのことを思ってくださるこうした先生方の尽力によって、今があるのだなと痛感します。頭が下がるだけでなく、目頭が熱くなりますね。
池田先生、本当にありがとうございました。