このブログでは、主に性同一性障害に関連する私自身の思いや活動の内容を書いています。

被保険者証の氏名表記について
厚生労働省が健康保険の被保険者証の氏名表記につき、通称名表記を可能とする通知を出しています。
通知書を入手致しましたので、ここに公開しておきます。
http://rany.jp/document/government/mhlw-2017-08-31.pdf

この通知で、被保険者証に通称名を記載することが可能となりました。

ただ、いくつか問題があります。
まずは、「保険者やむ得ないと判断た場合 名の記載を希望する旨申し出があり、保険者やむ得ないと判断た場合には、被保険者証における氏名の表記方法を工夫しても差し支えない。」の部分。

ここで言う保険者とは、被保険者証を発行している元のことです。国民健康保険だと市区町村ですし、企業だと協会けんぽとか保険組合がこれにあたります。
通称名使用はこの保険者がそれを行うかどうかを判断することになっています。つまり、保険者がダメと言えば変更できないことになるわけです。

実は、この通称名の前にも、性別欄を裏面記載にできるという通知がありました。これも同様に保険者の判断に任されていたのですが、実際裏面記載を実施している保険者は多くありません。
このあたり、厚生労働省と会談をもった際に強制できないのかと問うたのですが、そうした権限は無いそうです。

次に「裏面を含む被保険者証 全体として、戸籍上の氏名を確認できるようにすること。」の部分。
結局戸籍名をどこかに書くのであれば、GID当事者の精神的負担軽減に本当になるのか自体が何とも言えません。被保険者証みるだけで性同一性障害の当事者であることがバレバレになってしまう恐れもあるわけです。

それに戸籍名を裏面に書くとしても、そのようなスペースがあるのかという問題があります。複数ページになっているようなタイプだと可能でしょうが、カード型だと難しいですね。特にプラスティックカードだと、何か書くことを想定していないものもあります。
そうなるとカードの素材変更とかシステムの改修とか大がかりな話になってしまいます。保険者によっては物理的あるいは改修の時間的・金銭的にすぐには対応できないと言わてしまうこともありそうです。

さらに、性同一性障害としての診断書が必要なのは当然として、「通称名が社会生活上日常的に用いられていることを確認できる添付書類」も求めています。なので、通称名使用の実績の無い人はすぐには無理です。
これ、もうほぼ改名の時に必要な手続きと同様ですよね。それなら裏面に戸籍名記載とかややこしいことをされずに済む改名手続きをしてしまった方が良いのではないかとすら思えてきます。

とはいえ、厚生労働省としてもこのあたりが精一杯の妥協点でしょうか。まぁ、戸籍の性別・氏名一辺倒だった頃からに比べれば、対応がかなり進んだとも言えます。
何より、性同一性障害についていろいろな問題があり、国として対応が必要であると認識していることは評価できるのではないかと思いますし、こうした対応が更に拡大していくことを望みます。

ところで、この通知でちょっとびっくりしたのは診療報酬請求は戸籍上の氏名では無く「表面に記載された氏名で行う」となっていること。つまり表面に記載されている氏名が通称名であればそれで行うということです。

今まで行政は「住民基本台帳に記載されている氏名・性別との一体運用が必要」という立場だったのですが、それが崩れたことになります。
なんだ、やればれきるんだ。それなら性別欄だってできるでしょうし、戸籍上の氏名や性別を書く必要もないんじゃないかと思えます。
これは、今後のいろいろな要望に使えそうです。次回厚労省官僚と会談する際には、この点をつっこんでみたいと思います。
| ran-yamamoto | 性同一性障害 | 20:04 | - | - |
影裏


今年の芥川賞受賞作、沼田真祐さんの「影裏」を読みました。
芥川賞受賞作をすぐに読むなんて、ミーハーな感じがしていつもはしないのですが、今年の受賞作には性同一性障害の当事者が出ていると谷合規子さんから薦められ、単行本までいただきました。まぁまぁおもしろい作品でした。

正確には性同一性障害という言葉は一度も出てきません。その人は主人公の元恋人にあたるのですが、性別適合手術を受けるつもりとあるので、まぁ当事者で間違いないでしょう。

ただ、作品の性格上いろいろなことが説明されていないので、詳しいことはわかりません。
冷泉彰彦さんによればこれはこれは「全てを説明しない」という省略の技法なのだそうです。確かに性同一性障害の部分だけで無く、いろいろな内容が全てを説明されず、断片として切り出されて提示されていきます。あとは、読者の想像で補完してくださいということなのでしょう。

ネタバレになるので詳しくは書きませんが、そもそも、この主人公の元恋人というのが、MTFなのかFTMなのかすらよくわかりません。名前は明らかに男性名、しかし声は完全に女性声。一人称は「わたし」、2年もつきあって結婚まで考えていたとあります。

2年前は「女性」だったとすればFTMということも考えられます。でも現在も声が変わっていないならその後ホルモン療法などの身体的治療を何もしていないことになります。とすれば改名だけしたとは考えにくいのので、やはりパス度の高いMTFと考えるのが妥当でしょうか。

それにしても、SRSもまだ受けていなくても家族にも紹介できるような状態で、しかもイベント会社に勤務してプレゼンをバリバリこなすキャリアウーマン。どれだけパス度が高いんでしょうか。そこには、性同一性障害にまつわる苦労話などは全く垣間見れません。

とはいえ、主人公は男性同性愛的指向を有していると思われるような表現や行動が描かれています。そういう意味でMTFの恋人がいたということは、そうした指向があるということを補強するような意味合いがあるのかもしれません。
それであれば性同一性障害は出汁として消費されたようなもので、なんだかなぁですね。

実際、作者が性同一性障害のことをどこまで理解していて、どういう意図があったのか本当のところはわかりません。ちゃんとわかっていればこんな風には描けないんじゃないかとも思わないでもありません。
ただまぁ、性同一障害であるということは、単にその人のパーソナリティの一部であってたいした問題ではないというように描かれているようにも思えます。

それだけ社会において認知されてきたというか、今までのように「大変なんです。苦労しているんです。」の時代では無くなってきているのでしょうか。
もし、本当にそうであれば、私たちが「普通にくらせる社会」は近づいてきているのかもしれません。それならそれでうれしいことではあるのですが。

この作品、性同一性障害のことだけでなく、他の部分も日常が断片として淡々と提示されているだけと言えばだけです。
そのため、鮎釣りで途中で帰ってきてしまった件や、最後の黄色い合格通知の話などよくわからない部分もありました。

しかし、私たちは生きている上で、いろいろなことは断片でしか提示されておらずあとは補完するか無関心でいるかしかありません。
そうしたことを考えれば、「全てを説明しない」技法は日常そのもの提示なんだとも思えてきます。

といようなことをいろいろ考えさせられました。もしよければみなさんも読んでみてもらえればと思います。
| ran-yamamoto | 性同一性障害 | 03:16 | - | - |
厚生労働省官僚との会談
2017年厚労省官僚との会談

厚生労働省の官僚の方々と会談を行いました。こちら側は私の他、太田日本精神神経学会GID委員長、中塚GID学会理事長、形成外科学会から難波先生、泌尿器科学会から市原先生という気合いの入った布陣です。
健康保険適用等諸問題について要望と話し合いを行いました。
本年3月に古屋厚生労働副大臣とお会いして要望書をお渡ししているのですが、本日はその回答をいただくという形になっています。

セッティングの労をとってくださり、またほぼ最後までおつきあいいただいた谷合農水副大臣には感謝申し上げます。ありがとうございました。

健康保険適用は、既に平成30年の改訂に向けて中医協で審議が始まろうとしている時期でもあり、厚労省のガードはさすがに堅かったですが、いくつか重要な示唆もいただきました。また、厚労省の官僚側も今までとは異なりかなり性同一性障害の問題に理解を示し、好意的な印象を受けました。

この他、就労問題、履歴書等の性別欄問題、健康保険証問題などいくつかの問題についても話し合いました。
会談の内容については議事録を作ってもらっていますので後日改めて詳しく書こうと思います。
| ran-yamamoto | 性同一性障害 | 23:32 | - | - |
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